2010-05-16

消える書店 - スマートフォンや電子書籍市場の隆盛の裏で

スマートフォンや電子書籍市場が今ほど盛り上がるよりも前からの傾向だが、書店がじわじわと減っています。

特に地方ほど減っているようです。

消える書店、10年間で29%減 和歌山県ではほぼ半減 2010.01.26


以下、全国の書店を調査しているアルメディア(東京都)調べのデータです。


全国の書店数
└ 2000年 : 2万1922店
└ 2010年 : 1万5519店(約29%減)

最も減少率が高かった県 (2000→2010)
└ 和歌山県:257店から137店へ (約47%減)
└ 山口県、佐賀県が約38%減少

店舗数の都道府県別格差 (2010.01)
└ 最多の東京都:1739店
└ 最少の鳥取県:80店

書店の新規出店数
└ 2000~2008年 : 300店
└ 2009年 : 286店




書店数の推移として、もう少し詳しいデータは次のページで紹介されています。

書店数の推移 2001年から2009年
http://www.1book.co.jp/001166.html


2001年  20,939店
2002年  19,946店
2003年  19,179店
2004年  18,156店
2005年  17,839店
2006年  17,582店
2007年  16,750店
2008年  15,829店
2009年  15,482店 ※2009年10月現在

・ここ10年間で6000店前後の書店が減少。
・この推移で行くと、向こう10年間で1万店を切るだろうと予想されている。

出版業界の構造
└ 出版社:約4,000社
└ 書店:約13,000店(一部を除いて殆んどが中小企業集団)
└ 取次:日販・トーハンの2社で独占状態
* 「この2社に対する出版社・書店の不満は多々有るがそれでも2社から離れられないのは金融システム・物流システムが他に代替が無いほど優れているからである。」と言われている。


今後も厳しい環境が続く見通しの書店業界ですが、経常利益率ランキングの上位企業のなかに、書店として生き残るための道があるかもしれません。

書籍・文具業の総売上経常利益率ランキング
日経MJ 第37回 日本の専門店調査 2009年7月8日より作成


順位 会社名 (%)
1 ヴィレッジヴァンガードコーポレーション 11.7 %
2 ブックオフコーポレーション 5.9 %
3 トップカルチャー 2.2%
4 未来屋書店 2.1%
5 あおい書店 1.6%
5 三洋堂書店 1.6%
5 フタバ図書 1.6%
8 オー・エンターテイメント 1.3%
9 精文館書店 1.1%
10 京王書籍販売 0.8%
11 福岡金文堂 0.6%
11 積文館書店 0.6%
13 有隣堂 0.5%
13 三省堂書店 0.5%
15 紀伊国屋書店 0.4%
15 ジュンク堂書店 0.4%
17 丸善 0.3%
18 勝木書店 0.1%



経常利益率で抜きんでているのは、上位2社。
└ 1位のヴィレッジ・バンガードは「遊べる本屋」をキーワードに、本+雑貨の提案販売力が強い
└ 2位のブックオフは新古書として価格競争力がある

3位のトップカルチャーと、4位の未来屋書店は、どちらも主に地方を商圏に、ローコスト・オペレーションを核にして成長してきた企業のようです。

まずは、トップカルチャーについて


株式会社トップカルチャー
└ 設立 : 1986年12月
└ 売上高:295億(09年度)
└ 従業員数:322名(他パ-ト・アルバイト600名)(2009年10月31日現在)
http://www.topculture.co.jp/company/ir/cp.html

事業戦略
└ 音楽、映像、書籍、文具、ゲームなど様々なカテゴリーの商品を一店舗に集約
└ それぞれの好みの品が すべてあるから、家族や仲間で集える
└ 「日常的エンターテイメント」を提供する大規模複合店舗として、ファミリー層を中心に支持される

出店戦略
└ 地方生活圏の特性を踏まえ、インターチェンジ周辺や幹線道路沿いなど、ロードサイドを中心に店舗を展開。
└ 出店コストを徹底的に圧縮し、商圏人口4万人で利益を生み出せるローコストオペレーションを実現
└ DVD・CDレンタルにおいては、業界NO1のシェアを持つ「カルチュア・コンビニエンス・クラブ」の有力フランチャイジー

店舗数:
└ 店舗/新潟県24店、長野県14店、神奈川県7店、東京都7店、群馬県5店、埼玉県4店 合計61店舗 (2010年3月19日現在)



次に未来屋書店について

株式会社未来屋書店
└ 設立 :  1985年12月24日
└ 売上高 : 367億円(08年度)
└ 従業員数 : 正社員:110名  パート・アルバイト:約2050名
http://www.miraiyashoten.co.jp/company.html

事業戦略
└ 「次代の小売業の核となるSC(ショッピングセンター)への集中出店」
└ 「開発コスト・適正規模を考慮した店舗フォーマットの開発」
└ 「ブランド価値の創造」
└ 「お客さまニーズの把握・商品調達・プレゼンテーションをトータルにとらえたMD(マーチャンダイジング)の構築」
└ 「ローコスト体質をより強固なものにするための店舗オペレーションの設計」「変革の原動力となる人材の開発」

店舗数
└ イオンを中心とした全国のショッピングセンターに約164店舗(2009年2月20日現在)を展開

売り場づくり
└ 顧客のライフステージと生活シーンに基づいて、売場を10前後のジャンルに分類し、
関連性の高いジャンルに近づけて配置することにより 各ジャンルの連続性を演出

ローコスト戦略 - 初年度から利益を出せる店舗
└ チェーンストア経営に専念。煩雑な作業を本部で一括処理
└ 店舗フォーマットの標準化(新規出店店舗での投資コストを抑制)
└ 店舗作業の標準化と単純化(パート・アルバイトの戦力化)

ヴィレッジ、ブックオフ、トップカルチャー、未来屋という書店業界の経常利益率の上位4社を見てみると、書店としての成功要因として次の3つが挙げられそうです。

1. 本+アルファの商品文脈の提案力(ヴィレッジバンガード、未来屋、トップバリュー)
2. 新古書の価格競争力(ブックオフ)

3 .地方商圏+ファミリーをターゲットにした立地戦略+ローコストオペレーション(未来屋、トップバリュー)

噛み砕くと、「1. 意外な出会いがあって楽しい」とか、「2.他より安い」とか、「3. 一か所に全部揃ってるから便利」などのベネフィットがあるかどうかが肝と言える。



eMailが普及した今では、mailと言えばeMailを意味するのが当たり前になっています。それと同じ様に、eBookが一般化して、Bookと言えばeBookを意味する日も、そう遠くない日にくるのではないでしょうか。

そのときに、街の書店はどうなっているか?

街の書店と、電子書籍ならびにインターネット上の関連サービスと比べると、
・製本や取次コストのかからない電子書籍に、紙の本が価格競争力で勝つのは難しい
・限られた店舗スペースの本屋さんが、インターネット上の無尽蔵の品揃えに勝つのは難しい
・検索やレコメンデーションの利便性を考えると、特定の本の探しやすさや関連本の提案力でも勝つのは難しい
・電子書籍やネットサービスならレビューや関連データの参照もすぐにできて、本の選択や内容の深堀にも便利。
と厳しい条件ばかり思い浮かんでしまいます。


とはいえ、わたしは本屋さんが大好きなのです。特に、品揃えが豊富な本屋や、本のセレクトや並べ方に特徴のある本屋がたまらなく好きです。


平積みや棚の並びから、その本屋さんが一押ししている商品もすぐにわかるし、どういうコーナーにどんなお客さんが集まってるかで、世の中の関心もなんとなくわかったような気になれる。

その場で、本をすぐ手に取って、目次や著者プロフィールや、気になったページをパラパラできるのも最高です。

これからの10年で、たくさん消えていくんだろうけど、できるだけ街から無くなって欲しくないと思っています。

現在の日本には、殆どが中小企業といわれる約13,000の書店があるそうです。

小さな本屋さんが、これからの時代を生き残るには、他にはないようなユニークな価値を目指すか、他店との統合を通じて仕入れ・流通・出店にかかるコストを下げるか、いずれかまたは両方のアプローチが必要だと思うのです。


本屋さん好きとして、「1. 意外な出会いがあって楽しい」とか、「2.他より安い」とか、「3. 一か所に全部揃ってるから便利」といった経営努力を通じて、中小書店はお互いに統廃合をしてでも、少しでも多くの書店が街に残ってもらいたいです。

そのためにも、「再販制度」と「委託販売制度」を見直して、書店に価格決定権をゆだねると同時に、個々の書店ならではの目利き力、マーケティング力を育てていくことが急務だと思います。

本屋から本物屋<本+物販+α>へのシフトとでも言うか、そういう業態の転換が必要なのかもしれません。


と長々と書いてしまいましたが、文脈棚で有名な下記2店舗に遊びに行ってこようと思います。

往来堂書店

松丸本舗





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